(1)差別価格

2010-10-25

(1)差別価格
我々日本人は、「商品が同じなら価格も同じべきである」という考えに支配されがちですが、意外と同じ商品が違う価格で販売されていることが多いものです。
しかし、企業の立場からよく考えてみれば、「高く買う人には高く売る」ことができれば、それに越したことはないわけです。
「高く買う人には高い価格で売る、安くしか買わない人には安い価格で売る」という方法を経営学では差別価格戦略といいます。しかし、「そんな都合のよいことはできるわけがない」と思っている人が多いのではないでしょうか。実際、そんな例があるでしょうか。実は、結構あるのです。
ただし、差別価格には、利益最大化を直接的な目的としたものではなく、むしろ社会的な要請に応えることを目的としたものも存在します。

①顧客
顧客によって、異なる価格を設定することはよくあることです。
例えば、コンピュータシステムのメーカー直販大手のデルコンピュータ株式会社(DELL)では、個人向けと法人向けでは価格が違います。法人向けの方が価格は低めに設定されています。(ただし、法人向けは、リサイクル法の対象外でリサイクル料金が含まれていませんので、注意してください。)
また、NTTの電話料金も住宅用(個人用)と事務用(法人用)に分かれています。電話料金の場合、月額基本料金が事務用が住宅用より高く設定されています。ただし、事務用では、タウンページ(職業別電話帳)へ電話番号を掲載することが可能です。したがって、個人事業主の場合、タウンページに広告を出さないのであれば、住宅用で契約した方が節約になります。

回線使用料(基本料)の料金表

  1級取扱所 2級取扱所 3級取扱所
ダイヤル回線用 事務用 2,300円 2,350円 2,500円
(税込2,415円) (税込2,467.5円) (税込2,625円)
住宅用 1,450円 1,550円 1,700円
(税込1,522.5円) (税込1,627.5円) (税込1,785円)
プッシュ回線用 事務用 2,400円 2,400円 2,500円
(税込2,520円) (税込2,520円) (税込2,625円)
住宅用 1,600円 1,600円 1,700円
(税込1,680円) (税込1,680円) (税込1,785円)

(NTT東日本、加入電話)

博物館や美術館の価格も差別価格となっています。

東京国立博物館の(常設展の)料金を調べてみると、一般は600円、大学生は400円です。高校生以下と満70歳以上の方は(平常展について)無料です。障害者とその介護者各1名も無料です。

ただし博物館や美術館の差別価格は、利益の最大化ではなく、社会的な要請に基づいたものといえましょう。ちなみに、国立博物館には「無料観覧日」というものがあり、国際博物館の日(5月18日)と敬老の日は、(平常展のみ)無料です。これは、追加的コスト(限界費用)がゼロだからこそできる価格設定です。

価格そのものを変えるわけではないですが、特定の顧客だけに値引きをすることもあります。

例えば、映画のレディスデイは、その例です。シネマコンプレックスのマイカル板橋では、「レディスデイスペシャル」と称して、毎週水曜日、女性のお客様だけ、1,000円で映画が鑑賞できます。本当に女性の逆「差別価格」ですね(水曜日は、週初めのバタバタもおさまって、仕事も落ち着いているので、割引すれば映画を見る人が増えて稼働率を上げられると考えているのでしょう。)。

(学割のもう一つの狙い)
いろいろな商材に学生割引制度があります。一般に学生は大人に比べてお金を持っていないので余り高いものは買えないから、割引をすれば、もっと買ってくれるようになるでしょうというのが、学割を導入する通常の理由です。

しかし、中にはもっと奥が深い学割もあります。マイクロソフトのアカデミックパックというものです。このアカデミックパックとは、マイクロソフト製品を、教職員、学生・生徒・児童などに対して身分証を提示するだけで特別割引価格で購入できるという制度です。例えば、ビジネスには必需品の「Microsoft Office 2007 Professional」は、通常は62,700円もしますが、これがアカデミックパックなら34,400円で買えるのです。もちろん、ソフトは全く同じものです。この金額の差は大きいですよね。このアカデミックパックという仕組みですが、表向きは「教育に携わる人々の価値向上を支援する」という目的のためですが、本当は「囲い込み」が目的なのです。最初にエクセルやワードなどマイクロソフトの製品を使うと、それに慣れてしまって、他のメーカーのソフトは使いにくくなってしまうのです。機能的には他の会社の表計算ソフトやワープロソフトの方が優れていても、今更、使い方を覚えるのは面倒だということになるものです。したがって、学生を卒業して社会人になってもマイクロソフト製品を使い続けるようになるのです。

②場所
場所により価格が異なることもよくあります。

例えば、缶コーヒーは、自動販売機やコンビニなら120円です。しかし、スーパーなら88円程度と安く売られています。一方、観光地や旅館などでは、150円と高く売られていることもあります。

映画館でも場所により価格が異なることがあります。

私がよく利用する映画館(マイカル板橋)では、ワンランク上のサービスを提供する「プレミアシート」というのを設定しています。通常の鑑賞料金またはサービス料金プラス300円です。この「プレミアシート」、もちろん最も見やすい場所に設置されていますが、シート自体もイタリア製の大きく、ゆったりとしたシートとなっております。

(地域間差別価格)
地域により料金を変える方法を地理的プライシング又はゾーンプライシングといいます。航空運賃は、この価格設定方法をとることが多いようです。この価格設定方法では、競争が激しい地域では低めに料金を設定し、競争の激しくない地域では高めに料金を設定します。航空運賃の場合、新規参入のある羽田-札幌線や羽田-福岡線などでは、各種割引運賃の割引率を大きくすることなどにより、実質的に価格を低めに設定しています。更に最近では「競争志向価格決定法の例」で紹介したようにJR(新幹線)との競争が激しくなった羽田-伊丹線の価格も低めに設定しています。

最近になって、地域によって価格を変える地域間差別価格を導入する飲食企業が増えています。最も有名なのがマクドナルドで、昨年6月に地域別価格を部分的導入し、8月には全国に拡大しました。また、カレーチェーンの壱番屋が地域別価格を導入し、ポークカレーを東京23区内・大阪都心部では400円から450円に値上げしました。更に、牛丼の吉野家も、地域別価格を検討していることと報じられています。

これらマクドナルドなどの地域間差別価格戦略は、一般的な差別価格戦略とは異なります。通常の差別価格戦略は「高く買う人には高い価格で売る、安くしか買わない人には安い価格で売る」という方法ですが、マクドナルなどの地域間差別価格戦略では、「コストが高い地域では高い価格で売る、コストが低い地域では安い価格で売る」という戦略になっています。言わば(需要志向価格決定法ではなく)原価志向価格決定法による価格設定になっています。このため、地方が安く、都市部が高くなり、先ほどの観光地等の場所により価格を差別化する方式とは、結果的に逆のプライシングになることもあります。

地域間差別価格というと何か不公平な感じを受けますが、意外なことに、公共料金では前から行われていたのです。例えば、水道料金がそうです。人間は水なしでは生きていけません。正に生活必需品です。その水道の料金ですが、地方自治体ごとに決められているので、地域により値段が異なります。しかも地域によってかなりの差があるのです。2001年データによると、群馬県長野原町の家庭用上水道の料金は3,255円(10㎥)であるのに対し、山梨県・河口湖南水道企業団の水道料金は335円と約10倍の差が生じています。

③時期―飛行機
時期によって価格が違うものは少なくありません。

例えば、航空運賃もそうです。羽田(東京)から那覇(沖縄)まで、正規料金は36,400円ですが、旅割なら時期により14,800円のこともあります。(更にマイレージを使えば、ただ同然で利用できます。)急な仕事で沖縄にいくなら高くても正規料金を払うでしょう。暇な人が旅行で沖縄に行くなら旅割で十分でしょう。また、航空会社の場合、空港の離発着の権利を押さえておくため等々の理由から、飛行機を運行しないという選択肢はとりずらいのです。ですから、座席の稼働率が悪い時期にどうせ飛ばすなら少しでも固定費を回収する方がベターという考えが背景にあります。そして、飛行機を1回飛ばすには莫大な固定費がかかりますが、乗客一人当たりの変動費は微々たるものです。だからこそ、幅広いレンジでの差別価格戦略がとれるのです。

似たようなものに旅館・ホテルの料金があります。シーズンと閑散期、休前日と平日とで宿泊料金に大きな差を設けているところがほとんどです。土日しか休めないサラリーマンは多少高くても土日に宿泊します。また、お盆休みやゴールデンウィークも高いと知りつつ宿泊するのです。また、旅館・ホテルの場合も、宿泊客一人当たりの変動費はたいしたことはありません。特に最近流行のバイキング形式(ビュッフェ方式)の食事であれば、変動費はほんのわずかです。幅広いレンジでの差別価格戦略がとれるのです。

ちなみにマイカル板橋(シネマコンプレックス)では、「ファーストデイスペシャル」と称して、毎月1日は、1,000円で映画が鑑賞できます。(月初めは仕事もヒマなことが多いので、割引すれば、稼働率を上げられると考えているものと思われます。)また、「レイトショー スペシャル」という企画もあり、毎夜9時以降、上映中の作品はどれでも1,200円で観賞できます。

(時間差攻撃的差別価格)
液晶テレビやパソコンなどでは、新製品発売当初は高い価格を設定し、その価格でも購入する消費者に販売して、その需要が一巡したところで、価格を下げて販売するということが行われます。いわば時間差による価格差別です。これを、経営学では、上澄み吸収価格戦略といいます。この戦略については、後ほど「戦略的値付け方法」のところで詳しく説明します。

(パッケージが異なる場合)
これまでの差別価格は、基本的に商品が同じという前提でしたが、中には、パッケージだけを代えて、異なる価格で販売することもあります。

例えば、エビアンというミネラルウォーターがあります。500mlのペットボトルは、134円(税別)です。同じ内容量でもガラスビン入りとなると320円(税別)となります。なんと2倍以上です。これで驚いてはいけません。このミネラルウォーター、実は化粧水としても販売されているのです(商品名:エビアンブルミザトワール)。スプレー缶に入っていますが、成分はミネラルウォーターだけで(真空にするための窒素以外)他には何も入っていません。この化粧水、といってもタダのミネラルウォーターの価格は、400ml入りで2,000円(税別)です。100ml当たりで比べると、ペットボトル入りは、26.8円に対して、スプレー缶入りは500円と、18倍以上の価格設定となっています。

(差別価格はいけないこと?)
差別価格制は、相手や状況等により、対応を変えることなので、悪いことのように思っている方も多いかもしれません。しかし、必ずしも悪いことではないのです。

私の大好きな映画に黒澤明監督の「赤ひげ」があります。主人公の医者は、金持ちや権力者からは多額の薬代を取り立てる一方、貧乏人からは薬代も取らなかったのです。これも立派な差別価格制です。しかし、この価格差別制のお陰で、貧しい人も診療を受けることができたのです。これを、お役所のように、単一価格にしたらどうでしょう。結果的には、貧しい人は診療を受けることができなくなったでしょう。

この姿勢に私も感銘を受け、コンサルタントとして独立した時から、この制度を採用しています。つまり、大企業からはチャンとした料金をいただくが、中小企業やベンチャー企業に対しては、低料金でサービスを提供しています。また、地域貢献の観点から、地元である板橋区の会社に対しても割引料金でサービスを提供しています。

 

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