(1)価格改定 ③判断材料

2010-10-31

③判断材料

さて、値上げすべきか値下げをすべきかを、どのようにして判断すればよいでしょうか。

経済学的に言えば、それは「価格弾力性」次第です。

価格弾力性とは、販売価格を上げたり下げたりすることによって、売上がどれだけ増えたり減ったりするのかを示す指標です。わかり易く言うと、価格弾力性とは、どれくらい「安ければ多く買う」か、どれくらい「高ければ買う人が少なくなる」ということ示す指標です。価格弾力性が高いとは、安ければ非常に多く買うということです。

価格弾力性が高い商品とは、価格の変動率以上に売上が変化する商品をさします。例えば、少し値下げをしただけで売上数量が大幅に増加する商品です。一方、価格弾力性が低い商品とは、価格の変動率ほどは売上が変化しない商品をさします。例えば、少しぐらい値上げをしただけは売上数量があまり減少しない商品です。

したがって、原則としては、価格弾力性が低い商品は値上げをすべき、価格弾力性が高い商品は値下げをすべきという結論になります。

例えば、ブランド品は、価格弾力性が高い商品です。したがって、ブランド品は、セールを実施すれば、かなりの売上増が期待できます。(無論、長期的な観点からのブランドイメージの議論は別にあります。)

(値上げと値下げは大違い)
10%値下げしたら10%の売上げ数量のアップになったから、今度は10%値上げしても10%ほどしか売上げ数量はダウンしないだろうと考えるなら、とても甘い判断です。

確かに理論的には、10%値下げした後で10%値上げしたら元の価格に戻るだけです。それなら、値下げで10%増えた数量も元に戻るだけ、つまり10%の数量減少にとどまりそうな感じがします。

しかし、現実は、理屈ではなく感情で動くことが多いものです。

値下げは「得した」と感じ、値上げは「損した」と感じます。そして、人間は「得した」感情より「損した」感情の方がインパクトが大きいのです。つまり、10%値下げは「チョット得した」程度の感覚でも、10%値上げは「大損した」感覚になるのです。したがって、たとえ、10%値下げしたら10%の売り上げ数量のアップになったとしても、10%値上げすると30%も売り上げが減少することは十分に考えられます。

この「人は、(得をすることよりも)損を被ることの方をとても嫌がる」ということは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カールマン教授が提唱した「プロスペクト理論」というものでも説明されています。人は計算式からはじき出される通りの合理的な判断をするとは限らないのです。

(値下げは慣れに注意)
先に値上げの際に成功させるテクニックとして「値上げは小まめに!」とアドバイスしました。これは、新しい値段に徐々に慣れてきて、値頃感が高い価格に修正されるからでした。

実は、値下げにも慣れがあるのです。大幅な値下げは確かに一時的には効果的です。例えば、マクドナルドが2000年4月にそれまで130円だったハンバーガーを平日に限り半額の65円に値下げするという「ウィークデイ・スマイル・プログラム」を開始しましたが、このプログラムの結果、販売数量は4倍程度に増加したそうです。また、吉野家は2001年4月に牛丼並盛り(通常400円)について250円セールを実施しましたが、このときは7日間で1,000万食を売り上げたそうです。

このように値下げは、一時的には爆発的な売上増加につながります。しかし、消費者もやがて安い価格に慣れてしまうので、注意が必要です。65円という値段に慣れてしまえば、今度は130円という価格が高く感じられるようになってしまうのです。そして、休日の130円という通常価格が、値上げと感じるようになってしまうのです。そのせいでしょうか、マクドナルドは平日だけ値下げする方式を、2002年2月に打ち切り、常時80円に価格を設定しました。しかし、これは65円からみれば値上げです。おそらく客足が遠のいたのでしょう。それからわずか半年後の8月に59円に値下げしました。結局、日本マクドナルドホールディングスは、2002年12月期に29年ぶりの最終赤字に陥ったのです。値下げの慣れにはくれぐれもご注意を!

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