(2)値引き
(2)値引き
価格自体は変更しないで個別に対応するのが値引きですが、実は、この値引き作戦で失敗しているケースが多いのです。
次の事例で考えてみましょう。
【演習】
会社Aは、受注生産で特殊な機械を製造しています。現在、月平均で10台の売上げがあります。 総費用は、月平均で約1,000万円、1台当たり平均約100万円です。月間の総費用(1,000万円)の内訳を調べてみると、固定費が500万円、変動費が500万円(1台当たり50万円)であるとします。 いま、8月末に「1台80万円なら購入してもよい。」という商談がきました。 あなたが会社Aの社長なら、この仕事を引き受けますでしょうか。 |
この場合なら、引き受けた方が得します。何故なら、この仕事を引き受けることで、80万円の追加収入が得られますが、そのためにかかる費用は50万円、差し引き30万円の利益となるからです。
少し考えると平均コストが約100万円なのに80万円で引き受けてもうかるなんて、不思議な気がしますが、実は不思議でもなんでもないのです。次の仕事を取るかどうかの判断に必要なのは、変動費であり、平均費用ではないのです。
重要なのは次の仕事を取ることで、利益額が増えるかどうかというその一点に絞って考えればよいのです。次の仕事を取ることで増える利益が、限界利益(又は貢献利益)なのです。
利益額が増えるかどうかの判断は、簡単です。この仕事を引き受けることで得られる収入が、その仕事を引き受けることで追加的にかかる費用を上回ればよいのです。
言い換えれば、変動費を回収できる値段までは、追加の注文については、値引きしても大丈夫なのです。
例えば、8月には32台までは1台平均100万円で販売し、33台目を80万円で販売したとすると、売上高は3,280万円(=3,200万円+80万円)、総費用は2,950万円(2,900万円+50万円)なので、利益は330万円となり、7月より30万円増加します。
「追加の注文については」、ということも大切なポイントです。
これはあくまで追加的な仕事に対するものであって、全体的な値引き、つまり「値下げ」でないことに注意してください。これまでの仕事の価格は据え置きだという前提です。
もし、値下げして、全体の定価自身を下げてしまうと、全員が安い価格で購入することになるので、かえって赤字になってしまう可能性が大きいのです。
例えば、全面的に値下げをして、33台全て80万円で販売したとしましょう。その結果は、売上高は2,640万円(=80万円×33台)、総費用は2,950万円(2,900万円+50万円)なので、損益は310万円の赤字となってしまいます。これは大失敗です。
したがって、この変動費を上回る価格なら、これまでより安い価格であっても追加的に仕事を引き受けても良いといっても、他の仕事(取引)の価格に影響を及ぼさないことが大前提なのです。
○G泉館(信玄の隠し湯として有名な旅館)の例
冬に稼働率が低いのが悩みの種という相談を受けたので、限界費用を調べてもらい、それを下回らない範囲で、大幅な割引キャンペーンを提案しました。 ところが、ご主人は、その提案に反対でした。理由を尋ねると、「以前、冬にキャンペーンを実施したが、黒字にならなかったので中止した経験がある。今度も赤字で終わってしまいそうな気がする。」とのことでした。 私は、直ぐに尋ねました。 「ところで、キャンペーンをしなかった年の冬に比べると、赤字幅はどうでしたか。」 ご主人は、こう答えました。 「そりゃー、赤字は随分減りましたよ。ああっ、そーか。本当は、キャンペーンは続けた方がよかったのですね。」 限界利益の合計が固定費を上回らない限り、トータルで黒字になることはありませんが、赤字でも、限界利益が増えれば、その分、赤字幅は減少します。 |
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