(1)値付けの実例
(1)値付けの実例
①NOVA
経営破綻した英会話学校最大手の「NOVA」の値付け方法(価格政策)は、低価格戦略。NOVAの旗印となった1レッスン1,200円という値付けは、業界水準の3分の1以下だったそうです。英会話学校業界では、その値付けを人件費も家賃も出ないはずと、採算性を疑う声も多かったようです。
後発だったNOVAですが、低価格戦略の威力は凄まじく、2006年3月時点での受講生は48万人と業界シェアの64%を占めていたそうです(同社調べ)。
低価格戦略の手段として採用したのが、大量購入割引です。事前にレッスンチケットを多く買うほど1回当たりのレッスン料が安くなるというシステムで、いわゆる電車の回数券割引と同じです。NOVAの(スタンダード登録の)ケースでは、600回分のチケット(ポイント)を購入した場合、1レッスンが1,200円になったそうです。25回分のチケットでは、1レッスンが3,800円だったそうですから、相当の割引率です。
コスト割れとなるような低価格戦略を採用する企業は、実は少なくありません。しかし、その戦略が成功する業界と成功しない業界があります。この違いを本編でご説明します。
②携帯電話
激しい競争が続く、携帯電話業界ですが、最近調子が良いのがソフトバンクのようです。2007年11月には、ソフトバンクモバイルの転入から転出を差し引いた件数が3万3,000件と、「転入超」件数でKDDI(auとツーカー)を抜いて初めて首位に立ったそうです。
その立役者は、月額基本料を980円に抑えた「ホワイトプラン」という価格戦略です。「ホワイトプラン」は、2007年のヒット商品番付での西の小結にランクされた大ヒット商品です。私、富永家では親戚も揃ってソフトバンクです。家族や親戚にかける割合が高い人には本当にお得なプランだと思います。このプランが支持を受けているもう一つの理由は、料金制度の分かりやすさです。
一方、KDDIは11月12日、ドコモは26日にそれぞれ「販売奨励金」をなくして端末価格を高くする新料金を追加して料金制度が複雑になってしまいました。
これまで携帯電話では、端末料金を低く抑えるが、その分通話料は高く設定する値付け方法をとっていました。
これまでの値付け方法は、消費者側にとっては初期負担が軽くなるメリットがあります。そのため、試しに携帯電話を利用してみようという消費者にとっては便利な値付け方法でした。なぜなら、短期間の利用で終わるのであれば、トータルの費用を安く抑えることができるからです。このように初期費用を安く抑えて、まず、買ってもらうという値付け方法は、実は、結構いろいろな業界で取られているのです。
しかし、この値付け方法は、逆に言えば、同じ端末を長く使う人には不利な値付け方法なのです。そこで新しく携帯電話の端末料金は高くする一方で通話料は安くなるというプランが出てきたのです。このプランは、同じ携帯端末を長く使う人に有利です。このように、複数の価格体系を用意することも、値付け方法の常道です。これなら、色々なタイプの人がいても大丈夫です。それぞれ自分にあったプランを選ぶことができるからです。
ただし、携帯電話の場合、そうでなくても料金体系が複雑でわかりにくいのに、さらに両社の料金が複雑になったことで、かえって客離れを起こした可能性が高いのです。実際、ソフトバンク側では「ホワイトプランのわかり易さが訴求できたことも(首位確保に)奏功した」とみています。
③任天堂の価格政策
任天堂の業績が好調です。2007年のヒット商品番付での東の横綱は任天堂の「Wii」と「DS」でした。株価も上昇しており、1987年10月のブラックマンデー(株価大暴落)の直後に約800万円(1,000株)の任天堂株を買ったとすると、20年後の2007年10月には、保有株だけで約1億5,000万円の価値になっているそうです。しかも、その間に約700万円の配当金を受け取ることができたそうです。
任天堂の業績が好調の一つの理由は、値付け方法の素晴らしさにあるでしょう。
任天堂は、家庭用ゲーム機「ファミリーコンピューター」(略称「ファミコン」)を1983年に発売しましたが、その際、メーカー希望小売価格は14,800円としました。これは、父親が子供に「贅沢すぎない。買ってやってもいい。」と思える価格帯を念頭にして設定したそうです。いわば、売り手の論理ではなく、買い手の論理を重視して価格設定したわけです。
一方、松下電器が1994年に発売した家庭用ゲーム機「3DOREAL」の価格は、79,800円。これでは、高すぎて売れませんでした。その後、54,800円に値下げしましたが、それほど売上げを伸ばすことができませんでした。
値付けにおいて、消費者が感じる値ごろ感が大切である一例です。